第63期王座戦 第5局 羽生善治 vs 佐藤天彦 (横歩取り)

 最終戦までもつれた王座戦、今の天彦さんなら羽生さんを破る事も普通にありうると思えるので、ドキドキです。注目の振り駒は羽生さん先手、そして…うおお、羽生さん、最終戦で天彦さんの後手横歩を正面から受けたあああ!!!いや~、相手の得意戦型をこの大一番で引き受けるか、凄すぎる。でも、勝算はあるんだろうか?

20151026王座63-5_羽生vs佐藤天_横歩23手 さてその勝算というやつですが、序盤早々に羽生さんが凄い形を選びました。横歩△33角84飛型に対し、23手目に▲77角!うあああ、なんだこれ、見た事ないよ…。。う~んなるほど、天彦さんが最終局で後手番になったら、悔いがないように自分の最も得意な横歩を持ってくるのは予想できること。それに対して先手側が戦型選択権を選べる形を用意したという事か。いや~、序盤早々、熾烈な駆け引き。しかしこの形は前例がないわけではないそうで、プロでは20局あるとの事ですし、ここ数年もたまに指されるそうなので、天彦さんも調べてないわけではないでしょうが、本筋の研究は外されたんじゃないでしょうか。

△51金▲68銀△62銀▲48銀△94歩▲58玉△23銀▲38金△95歩(32手目盤面図)
 こうなると兎に角気になるのは先手の陣形。どう構えるんだろうと思ってたんですが、なんとノーマル中住まい。後手は△23銀型でかつ9筋の位を取って、攻撃形としては万全。▲77角でひとめ何が危なそうって、先手左桂を77に跳ねにくい事です。穴熊崩しでも矢倉崩しでも、端攻めの典型で香を浮かせてから△85桂という筋がありますが、これに対抗する速さの手が先手にあるかという事。また、角交換後の△55角とか筋違い角もオッカナイ。いや~、▲77角はアマがアドリブで指せるような形じゃないぞ…

20151026王座63-5_羽生vs佐藤天_横歩32手▲36歩
 棋譜中継によると、この歩の突き出しは危険な一手だそうです。しかしこの歩を突けないようでは先手の攻撃は出遅れるし、これが無理なら▲77角は指さないような気がするので、多分これは間に合うという計算なんでしょうね。しかし、マジで間に合うのかな…

△96歩▲同歩△97歩▲同香△93桂
 おおお、天彦さん、▲77角を咎めに行ったああ!!いや~、早くも序盤の山場です(^^)。次の△85桂からの戦場のドンパチと同時に、角交換、2手かかりますが▲37桂、このあたりに加えて味付けがどれぐらいあるかという感じでしょうが、ちょっと後手の方が速い気がするなあ。

▲22歩△同金▲37桂
 角交換後の角の割り打ちに金が当たるようにしておくんですね。これは横歩の先手の歩得を存分に生かした味付け。これは勉強になりました(^^)。これで先手も次の▲45桂が楽しみになりましたが、しかし手番は後手。

△85桂▲33角成△同桂
 後手の△85桂が速い!!早々に△99角成を許すのは癪なので、先手からの角交換は本筋。ここ、初段位の頃なら絶対に▲66角と打ち込んでいたと思うんですが、△74飛みたいな手を呼び込む事にもなりそうですよね。僕はよく失敗するんです、横歩の角の打ちこみで(p゚ω゚*)。。しかしここで羽生さんが眩惑的な手が!!

▲86歩(45手目)
 ええええ(゚ロ゚ノ)ノ、なんだこの後手の攻めを督促するような手は?!!
いやあ、はやく攻めさせて潰すなら分かるんですが、単に受け切れなくなっちゃうだけじゃないのか、これ…。

△97桂成▲同桂△86飛
 攻めを督促しておいて、先手陣は破けてしまいましたよ。ちょっと羽生さんの考えが分かりません。どうなってるんだ、これ…ここで▲87歩は何やってるか分からないので、龍の成り込みを許しておいて反撃なんでしょうが…難しいいい!!

▲24歩△14銀
 ここも序盤の山場のひとつだった気がします。桂香交換をした時点で▲34桂とか歩頭桂の筋ができたので、▲24歩は僕も考えなかったわけじゃないんですが、△14銀で何でもない気がしました。また、△33桂の形の将棋の場合(角交換せずに△33桂の形の将棋は、プロでは全然見ませんが、道場だとたまにやられる^^;)、△35歩で飛車を止められるのが痛い事が結構あるんですよね。というわけで、早々に見切りをつけていたんですが、なんと羽生さんはここに着手。で、次が驚愕でした。

▲34角
 うおおお、すげえ所に角を打ったあああ!!!25を受け、23に攻めを集中し、そして角桂の手筋である▲44桂の筋まで作る恐ろしい手ですが、しかし△89飛成は大丈夫なのか?えっと、△89飛成▲44桂△42玉▲79金△飛車をどこかに逃げる▲23歩成…うわ、先手の方が速いのか!となると天彦さんはこの戦場を処理しないといけませんね。いや~、最終局はものすごい将棋になったぞ(o^ー^o)。

△25歩▲16飛
 そうそう、△25歩の合駒で飛車を止められるのが△33桂のいやらしい所なんですよね。僕はここで▲29飛と引くことで後手の飛車の成り込みを受けるんだと思ってました。ところが羽生さんの選択は▲16飛!!!いや、こんな手ありえないだろ…。。羽生さん、▲34角以下は勝負手連発というか、ちょっと信じられない構想。これで後手に龍を作られることが確定ですが、なぜそれで良いと思えるのか、まったく理解できず。。

20151026王座63-5_羽生vs佐藤天_横歩59手 ここからの将棋も驚異。あまりに凄すぎて、感動的でした。59手目盤面図は、先手の飛車が狭い所に封じ込められながら、羽生さんが▲55桂と打って43の地点に火力を集中したところです。この桂打ちがドラマチック。なぜ羽生さんが飛車を16に逃げたかは、ここに繋がってくるんですね。つまり、一番いいタイミングで飛車銀交換をすれば23の地点は破れるわけで、問題はそのタイミングと、破った後の構想に成算が持てるかどうか。これを遡ると羽生さんは角・歩・手駒の桂で手を作りに行ったわけで、この桂が55、44、34と、一手ごとに狙い筋を変えて後手受けにくくしていた。つまり先手の攻め手の中心は常になかなか打たれない桂だったわけですが、これを可能にしたのは、後手の龍の成り込みと引きかえに攻めを督促した45手目▲86歩の構想に遡ります。あの86歩、誰だって違和感を覚えたんじゃないかと思うんですが、▲77角で中住まいを構想した時点で先手が後手を踏むのは目に見えていたので、角桂で手を作りにいこうというのが、戦う前からすでに練っていた構想だったんじゃないかと。この桂を打ち込みと、16に飛車を逃げた手がつながった瞬間は戦慄でした!!
 昔、羽生さんの書いた「上達するヒント」という本を読んだ事がありまして、これで僕は初めて将棋というものの原理の一端を理解できた気がして、これが初段到達への原動力となりました。大局観というやつですが、▲55桂は遠大な構想がものの見事に結実した会心の一手だったんじゃないかと。こういうのは将棋ソフトに一手一手読ませてその時々の数字の評価を見ているだけでは絶対に理解できないと思うんですよね。人間が指す将棋だけが生み出せるドラマが刻まれた棋譜だったと思います。

 さて、この局面、ひとめ△34龍と角を抜いて先手の攻め筋を潰してから先着を狙いたいところだと思うんですが、しかしこれはやってみたら先手の方が速い。後手玉は寄ってしまいます。というわけで、後手は守るしかないのですが…

△32金▲14飛△同歩▲23歩成△42金寄
 先手は飛車銀交換して23の利きを弱くしてからと金作り。これで後手左辺は破れです。ここで後手の金が最初から32にいたらどうだったかと考えると…序盤の▲22歩△同金の手の効果がなんとここで出てくるとは、恐ろしすぎる。そしてこのと金を取ると▲43角成でゲームオーバーなので取れないというのが痛い。というわけで金を逃がしますが…

▲32銀
 この銀の打ち込みがこれまた激痛。この銀もさっきの飛車銀交換という駒損をして手に入れた銀ですが、今この瞬間に関して言えば、飛車よりも価値がある銀でした。いやあ、もう凄すぎて鳥肌ゾクゾクです。。

 以下、後手から迫る手はどれも足りません。△29飛ですら▲39金で何でもないというのが痛い。というわけで後手は複雑に逃げながら攻防手を挟んで紛れる順を探したいんですが、羽生さんは間違えるどころか考えてもくれません。結果、85手にて先手羽生さんの勝ち、王座防衛です!!

 この王座戦は5局とも素晴らしかった!!!今期タイトル戦の中で抜群の面白さでした(^^)。実際のところ、「ああ、羽生さんは失冠するかも」と感じたのは王座戦だけでしたし、それだけ天彦さんは強かった!!昨年度から後手横歩を携えてB1もA級もまったく負けず、今期もA級棋士相手に各棋戦で無双状態で勝ちぬけてきた天彦さんの強さは本物でした。今日だって、僕には天彦さんが緩手を指したように見えた所はまったく見えませんでした。そしてその天彦さん必殺の後手横歩を2度まで弾き返した羽生さんは見事、鬼神のごとき強さでした。素晴らしい王座戦でした!!

 それにしても、この後羽生さんは棋王と王将にも挑戦する可能性があるんですよね。本当に衰えてるのか?オソロシイ。



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Author:ShougiX
駒の動かし方を知っていた程度の初心者です。せいぜい1日1時間ぐらいしか将棋に時間を割けない社会人が、ガンバって1年で初段になる事が目標です!
(*追記)10ヶ月ちょいで初段到達!!ただいま、居飛車側から各戦型に対応できるよう奮闘中(汗)。。

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