『羽生善治の終盤術1 攻めをつなぐ本』

HbuShuubanjyutu1 昨期後半から今期のここまでの羽生さんの強さは化け物レベル。絶賛開催中の王位戦でも、王手すらかける事は難しいんじゃないかという負け将棋をひっくり返したり(しかも2局連続!)、名人戦でもとんでもないところに金を打ち込み、それが最後の最後に決め手になってしまったり。竜王戦の挑決トーナメントでは、あの郷田さんを、まだ中盤だと思っていたところからいきなりとんでもない歩の打ち込みから、一気に終盤に引きずり込んで短手数で仕留めてしまいました。相手はいずれもトッププロだというのに、信じられん。。いずれの対局にも共通していえるのは、圧倒的な終盤力。錚々たるトッププロの皆さんですら、羽生さん相手に互角で終盤まで来てしまったらもうアウトという感じのここ半年なのです。7冠の頃もこんなだったんだろうなあ、きっと。

 で、この本は、羽生さん本人が書いた数少ない本のひとつで、終盤術の本です。羽生さん自著という本は意外に少なく、他では中盤の大局観の本『上達するヒント』と、急戦矢倉の序盤定跡『変わりゆく現代将棋』ぐらいみたいです。これらを通して読めば、羽生さんの序盤から終盤までの考え方にひと通り触れることが出来るという感じですね(^^)。

 この本、僕は中級ぐらいの頃に手を出して、全くついていくことが出来ずに挫折した事があります(T_T)。で、ここ最近の羽生さんの終盤術があまりに素晴らしいので、段位になった今なら理解できるかも知れないと思って再トライしたという次第。そして…おおお!!!これは素晴らしい!!段位になって以降、自分の終盤力アップに役立ったと思える本に、谷川会長の書いた『光速の終盤術』という本があるのですが、それと同じぐらいに濃い内容でありながら、それよりもかなり分かりやすいかも。羽生さんの実践譜18局の終盤を、羽生さん本人の解説つきで1手ごとに読み手が解答していくという形です。そして、指し手の根拠となった考えの解説が素晴らしすぎます。また、選ばれた局面図も素晴らしい。

新規棋譜0手 例えば、これは冒頭の1問です。後手が△65歩と突いてきたところで、先手はどうすべきか、という問題ですね。いやあ、これは素晴らしい問題だと思うんですよ。コンピュータだったら総当たりで考えるんでしょうが、中終盤という手の広い所で総当たりなんて、人間には無理。こういう所では、構想力というか、何を基準に指し手を考えれば良いのかというのが、僕ぐらいの棋力の人が知りたい事なのだと思うのです。そういう判断基準がないのであれば、▲65同歩、▲38飛、▲55歩…みたいな感じで、ありそうな手から考えて、中でも良さそうな手を選ぶという感じになっちゃうと思うんですよね。ただ、ここに形勢判断の基準があれば、考えの取っ掛かりが出来るんじゃないかと思うのです。で、羽生さんの推奨手は…

▲57金
 で、なぜ▲57金か。普通に▲65同歩だと△77角成以下、猛攻を浴びてしまうのでナシ、しかし利かされている36の銀を払おうと▲38飛と回すのであれば、できれば△47歩と当たりを打たせてからの方が得。また、狙い筋としては▲35銀で一気に飛車道を通す手もあります。これらを踏まえて、自陣の48の飛車を攻防に使える順で応手を考えると、▲57金△66歩▲35銀となれば、後手は△47歩と当たりを打たざるを得なくなってしまい、先手は打たせてから飛車を3筋に回す事が出来る、という訳ですね。こうなってくると、▲57金その一手だけの問題じゃなくって、5手一組で駒組みも引き締まった上に全体が攻防手になってきちゃう感じです。で、この後も詰みまで説明が続いていくんですが、これが素晴らしすぎる!!いやあ、自分が今までどれだけ即物的な手ばかりを選んでいたかという事を思い知らされてしまいました。即物的な手ならですね、例えば角道を抑えたいなら▲55歩が浮かんじゃうと思うんですよ。でもそれだと玉形と反撃筋がバラバラなままなんですよね。逆に、利かされている銀をどかしたいなら▲37歩が浮かんじゃうと思うんですが、これは今度は△66歩の取り込みが当たりになっちゃう。即物的な近視眼的な手ばかりしか考えられない僕みたいな棋力だと(>.<)、こういう手ばかりをグルグル考えてばかりになっちゃうわけですが(^^;)、プロ将棋を見ていると、いつも僕が思いつく手からは程遠いような、しかし指されて見ると、長い目で見てそれが絶好手だった、みたいな手がやたらと出てくる。きっと、判断基準が違いすぎるんじゃないかと思うのです。そんな僕が知りたいのは、中終盤でプロがどうやって形勢判断をして指し手を選んでいるのかという事。きっと、同じような事を思っているアマの人も多いんじゃないかと思うんですよね。で、この本は、まさにその需要に応えたもので、羽生さんの終盤での形勢判断の仕方を、本人の解説で読める感じ。A級棋士ですら片っ端からやられてしまう羽生マジックのトリックがこれでもかと書いてある感じで、門外不出の秘伝を盗み見たようなな気分になり、読んでいてちょっと感動してしまいました。

 さて、この本、僕は級位者の時には全くついていけませんでした(゚∀゚*)エヘヘ。というわけで、個人差はあるかもしれませんが、やっぱり級位者には難しすぎるかもしれません。でも、2~3段ぐらいの棋力があれば何とかついていけそうな気がします。つまり、2~3段ぐらいの人(という事は、5~7手詰ぐらいは大体バッチリで、寄せの手数計算もほぼ間違えないぐらい?)が、そこから終盤力をあげたいと思っている人は、迷わず読むべき本なのかもしれません。というのは、「ただ逃げるのではなく、当たりを打たせてから逃げる」とか、「相手の攻め手を逆用して攻め手を作る」「捌きたい駒を動かすのではなく、争点を作って捌く」…こういうテクニックというのは、詰め将棋や手数計算の寄せ将棋では学ぶことが難しい。では駒の手筋で学習できるかというと、駒の手筋を使う事にはなるんだけど、どういう判断基準を持っていればその順を選べるのか、という事はやっぱり学べない気がします。終盤術とはこういうもののことを言うんだろうなあ、すげえ。。あ、そうそう、さっきも書きましたが、谷川さんの書いた『光速の終盤術』という本も、ものすごく素晴らしい本です(僕の場合は、この手の終盤術を最初の学んだのは谷川本でした)。しかし、谷川本は、この本以上に難しいです。段位になって、終盤がまずいなと思ったら、いずれ出会う事になる本だとは思うのですが、個人的な感想としては『羽生善治の終盤術1』の方が先の方が分かりやすいんじゃないかという気がします。そうそう、僕の場合は、読んでいるだけで「おお!すげええええ!!」となってしまったので、棋力アップとは関係なしにも一読をおススメしたいです(^^)。いやあ、これはすごい本ですよ。。


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「羽生善治の終盤術」は私は読んだことがないのですが
非常に評判のいい本ですよね。
1巻が一番難しくて3巻が一番易しいので
「3→2→1」の順番で読むといいかも、という話を聞いたことがあります。

しかし羽生さんってすごいですよね。
私は「上達するヒント」しか読んでいないのですが
自らの思考を言語化する能力がとても長けていらっしゃるように感じます。
天才と呼ばれる人は、「その人自身でしか理解できない、感性の天才」が多いですが、
羽生さんはそれを普通の人にもわかりやすく伝えられる点が他とは違いますよね。

Re: タイトルなし

コメント、ありがとうございます!

> 1巻が一番難しくて3巻が一番易しいので
> 「3→2→1」の順番で読むといいかも、という話を聞いたことがあります。

 3は矢倉、美濃、穴熊の囲い崩しの本なので、囲い崩しの勉強が間に合っている人はパスしても大丈夫かもしれません。僕は級位の頃に穴熊が全然崩せずに苦労した頃がありまして、その時にお世話になりました(^^)。

> 私は「上達するヒント」しか読んでいないのですが

 あれも大名著ですよね!なかなか段位になれなかった僕が、段位になれた決め手の一冊でした。今も、あの本に書いてあることを念頭に中盤を指しています。常にタイトル戦を戦っているような超多忙の中、序・中・終盤それぞれに名著を残されているというのは、アマチュアの僕にとっては大変ありがたい事です。
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Author:ShougiX
駒の動かし方を知っていた程度の初心者です。せいぜい1日1時間ぐらいしか将棋に時間を割けない社会人が、ガンバって1年で初段になる事が目標です!
(*追記)10ヶ月ちょいで初段到達!!ただいま、居飛車側から各戦型に対応できるよう奮闘中(汗)。。

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