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序盤定跡の勉強、の前に…

 暑いです。夜だというのに、部屋の温度が30度を超えています。こんな日は、カルピスソーダでも飲みながら将棋を指して気分を紛らわすしかありません。というわけで、カルピスソーダを飲んでいる中、Lexis様から書き込みをいただきました。

「将棋の本(特に定跡書)を読むのに苦労された経験はございませんか?私は法律をやっているので情報の体系化や論理力には自信があったのですが、将棋の本の内容がさっぱり頭に入ってこず、10冊弱ある定跡書で読破できたものがありません…。いつも適当な右四間飛車をやっては指す手に困って負けています。そんな初心者ですが、ShougiXさんのブログからかなりの量の書籍を読みこまれた軌跡が窺えたので、アドバイスを頂きたく、書きこませていただきました。」
「将棋は観戦はしていたので、将棋を指すこと自体はできる、という程度でした。たまに24で観戦しても定跡通り進んでいるものはほぼなく、定跡の有用性についても疑問を持っている状態です。 」

(量について)

 スポーツでも音楽でも将棋でも、熟練を要する類のものは、正しく物事を考えることが出来るなんて言うのは当たり前であって、量をやらなければ絶対に身につかないと、個人的には思っています。熟練を要する類のものは、どんなに質が良くても、量をこなさなければ身につかない気がします。論理だけならば経路完全性さえ担保出来ていれば問題ナシですが、熟練には経路完全性に加えて反復学習が必要。若い頃、どうしても演奏できない楽器がありまして、あるプロの人に教えを乞うた事があります。で、一日一緒にいたのですが、そこでビックリしたのは圧倒的な練習量!もう「ここが弾けない」「あれが出来ない」と理屈ばかりこねていた自分が恥ずかしくなってしまいました。リクツ以前に、練習の絶対量が足りていなかったのです。将棋でもこういう事はあるんじゃないかと思っています。例えば、将棋を始めたばかりの頃は、脳内で将棋盤の視覚イメージを作ることが出来ずに定跡書を読めないという事はよくあるみたいです。この場合も、解決策は「どうやれば将棋盤が頭でイメージできるか」というリクツや質をいくら追及したところでほとんど無意味で、とにかく量。まずは、勉強量を疑ってみては如何でしょうか。

(質について)

 何かを学習している時って、学習する側に「習う技術」「学ぶ技術」が要求されると思っています。例えば、先生と生徒だったら、先生よりも生徒の方に習う技術が必要。同じ先生に習っているのに、成績の差が出るなんて言うのは、その典型例なんじゃないかと。
 学習がうまくいかない際は、先生やテキストに問題があるのか、学習している自分の側に問題がるあるのかを正しく見極める必要があると思います。学習できる出来ないの差は、半分は学習する人の側に問題があるハズですからね。そして、テキストが悪いのであればテキストを取り換えるし、自分の側に問題があるのであれば躊躇なく自分を変えると良いと思います。先ほどのプロの音楽家先生に教わったことは量ばかりではなく、質もそうでした。僕は、とある曲を演奏できるはずのない指使いで練習し続けていたのです。その指使いでは、日本一の演奏家ですら演奏困難だったわけです。この場合の問題は、量ではなく質でした。質を疑う。それが正しい学習法であるかどうかを最初に見極める。量の勉強をするのは、正しい学習法を見極めてから。この時、最良の学習法を導くことが出来るのは、自分しかいない。何が困難になっているのかを知ることが出来るのは本人だけですからね。

(序盤定跡を理解するには基本的な棋力が必要というハナシ)

 10級ぐらいの頃、序盤定跡の勉強が捗らないのは、序盤定跡ではない所の棋力にあるのかも知れないと思った事があります。
 将棋って、序/中/終盤は別物だが、このバランスが取れていないと勝ちに結びつかないゲームなんじゃないかと思います。これを将棋勉強に置き換えて表現すると、終盤のレベル10の人が、序盤のレベル20を理解しようとしても難しい、みたいなイメージ。序盤定跡の本を読んでいて理解できないというのは、それ以前の基礎的な将棋力がまだ完成していないのかもしれません。例えば、5手詰が解けるぐらいの棋力があれば、序盤定跡書で検討を打ち切られた局面の先がどうなるかの想像がつくが、その棋力がないと検討打ち切りのところでチンプンカンプン、なんていう現象は、級位者の頃はよくありました(^^;)。最低限の棋力がないと、序盤定跡の本の指し手の意味を理解するのに大変に苦労する事も多いんじゃないかと思います。

(定跡は、定跡手以外を咎められて初めて有用になるというハナシ)

 定跡の有用性について。「ここにパズルゲームがあって、まったく同じ思考能力を持った人がこれを解く競争をする。この条件下で、もし一方が既に解法を知っており、もう一方が一から解法を考えなければならないという状況になったら、解法を知っている人が圧倒的に有利。」これが定跡の有用性であると思います。本将棋でいきなり考えるのと、既に正解を知っていて指すのでは、思考に費やさなければならない対象を大幅に狭めることが出来ます。で、もし全100手の将棋で、詰みまで研究されている将棋の場合、「この場合は指し手Aが最善だろ」という解答が100手に渡って蓄積されたものが定跡だと考えれば良いのではないでしょうか。これを20手まで指せれば、20手までは絶対に間違わないし、50手まで指せれば50手までは絶対に間違わない。もし定跡を知らない戦型になった場合は、自分に指し手が回る度に何十手も読みを入れて最善手を探し出さなければならない。これがどれほど有利であるかは、次回にでもデータで検証してみようと思います。
 そしてこれがそのまま、「定跡通り進んでいるものはほぼなく、定跡の有用性についても疑問」への回答になります。将棋はまだ完全解に至ったゲームではないので、たしかにまだ解析されていない手がゴマンとあります。しかしこういった未解析の手のうち、9割以上は間違いなく悪手であるので、これを除外すると…研究の範囲にある指し手の場合、定跡を外れた手は、明らかにマイナスの指し手であるわけです。だから、定跡通りに進んでいないというマイナスの指し手を咎められないのは、咎められない人間の棋力の問題であって、それは定跡の有用性を否定するものではないんじゃないかと。言い換えれば、定跡を活用できなかったのは、定跡の勉強段階で問題があったか、棋力自体に問題があるのかのどちらか(あくまで有効手となりうる新手を除いたハナシです)。基本的に、定跡勉強は、自分の最善手を覚えるだけでは半分で、相手の悪手を咎める順も覚えて、はじめて役立つものになります。

(序盤定跡を覚える前に知っておくこと)

 序盤定跡が覚えきれねえ!!これは誰でもそうだと思います。僕の計算だと、居飛車を選択した場合、1日1~2時間を序盤定跡の勉強に充てるとして(=ひと月で1冊ぐらいのペースで進むとして)、戦型を極限まで絞り込んだとしても、最低限の定跡を覚えきるのに3年ちょっとかかる計算です。僕も、その道半ばです。対ゴキゲン中飛車なんて、超速▲37銀が良いと分かり切っているのに、それを勉強する時間が無くって後回し(T_T)。次善手の一直線穴熊で何とか凌いでいる状態です。
 4つほど、序盤定跡に関する命題を作ってみようかと。真偽のほどはまた別として。

 1.本を読むだけで定跡を覚えるなんて無理。

 2.定跡書を丸覚えしても、それぞれの手がなぜ最善手であるかを理解していなければ無価値。
  これは、次善手以下が指されたら咎める順をを知っているかどうかと同じ意味。

 3.一冊の定跡書に書かれている順なんて定跡の一部でしかない。
  一部しか定跡を知らない場合、その一部にし進行しない限り、定跡は使い物にならない

 4.定跡は新手が出れば簡単に覆る。
  定跡が更新されるという事を頭に入れた勉強方法を採用する必要がある


 は、根本です。羽生さんですら「指さないと覚えられない」と言っています。将棋の勉強で昔から言われているのは、実際に駒盤に並べる事みたいです。多分これは意味記憶ではなく体験的記憶などとしても記銘できるからだと思います。僕の場合は、「Kifu for Windows」というソフトに入力して並べています。こうすればついでにデータベース化できますしね。このソフトについても過去に記事にしましたので、ブログをひっくり返して探してみてください。実践で何度も指さないと覚えられないという根拠は、記憶というものの「記銘」と「思いだし」が、別のプロセスであるからだと思います。定跡の勉強を、リアル将棋盤であるにしても棋譜ソフト上であるにしても毎日しているとですね…、毎日、昨日の勉強の終了地点に戻るために、初手からバババッと並べる事になるので、最初の指し手になればなるほど、100回じゃきかないぐらいに並べ直す事になります。これを繰り返していると、調べている段階で本筋の手順は嫌でも身についてしまうと思います(^^)。で、定跡を覚えたら、すぐに実践で使いまくる!
 は、先ほど述べたので説明を割愛。これは定跡手を覚える事の意味それそのものを示していると思います。
 は、2から引き出される命題でもあります。たかだか200~300ページ程度の本に、ある戦型の変化の全てが書けるわけがありません。だとしたら、定跡書というものは、そのエッセンシャルな部分だけを取り扱うか、限定した局面だけを深く掘り下げているかのどちらかの傾向に傾くはずです。同時にについても気づいておくと良いと思います。3と4を重ねて考えると、どういう事態が生じるかというと…定跡書の定跡手順が、実はすでに使い物にならないものである可能性があります。言葉を変えると、1冊の定跡書を丸覚えしても、それは無意味である可能性がある。ということはですね…序盤定跡の本を読むときには、最善の定跡手順を調べる段階と、それを覚える段階の2段階に分ける必要がある、という事になります。序盤定跡の本は、いきなり覚える為のものじゃなくて、自分なりの序盤定跡システムを作り上げるためのツールのひとつ、と思った方が良いと思います。

 序盤定跡の勉強という観点からすれば、定跡書を使っての学習というのは、方法のひとつでしかなくって、決して目的ではないと思います。序盤定跡学習の目的は、序盤の効率的な指し手のシステムを作り上げ、それを記憶する事です。
 で、具体的にどう勉強するかというと…最近、僕自身が序盤定跡の勉強法をマイナーチェンジしたので、近いうちに別記事でまとめようと思います!

(しょっちゅう負かされる戦型への対策が定跡勉強の第一歩、の気がする)

 これだけ長文を書いておいてナンですが、「レート1000前後」という事は…個人的な見解ですが、超初心者の頃は、手筋と寄せの勉強だけはキッチリしておいて、あとは同じぐらいの手合いの人と本将棋をガンガン指しまくった方が将棋の勘所が掴める気がします。そうそう、駒の手筋の勉強は『羽生の法則1 歩・金銀の手筋』と『羽生の法則2 玉桂香・飛角の手筋』がおススメ。他を選択するなら、高橋道雄さんの駒の手筋本も評判がいいです。寄せの勉強は『寄せの手筋200』がおススメです。序盤の定跡勉強は、実は果てしなく時間がかかるので、取り急ぎは『将棋 絶対手筋180』で間に合わせてしまう。で、中飛車でも矢倉でも石田流でも右四間飛車でもガンガン指しまくる!自分の中終盤力を頼りに、プロの指し手なり定跡書の手順なりを見よう見まねで指しまくる!もし変化されたら、あとは中終盤力を頼りに考えまくって勝ちを見出す。で、10連敗も20連敗もする。すべてはそれからなんじゃないかと。そうすると、たぶん50番ぐらい指した頃には、「終盤力をどうにかしなくちゃ」とか、「あの戦型に対する対策を立てないとマズいな」みたいなものが見えてくると思います。僕の場合、10~7級ぐらいの頃は、対戦相手に四間飛車使いの人がやたらと多くて、自分の勉強したい戦型以前に、四間飛車の定跡勉強に手をつけないわけにはいかない事に気づきました。四間飛車破り、これが序盤定跡の勉強の第一歩だった気がします。で、さすがに何百人もの棋士が、何十年にもわたって作り上げた定跡というものの効果は絶大で、定跡手順で指せるようになると相手を負かせるようになる。指す前から答えを知っているという事は、指す前から優勢みたいなもので、こうなると面白くて仕方がなくなるんじゃないかと。例えば横歩△45角戦法なんていう詰みまで研究されている定跡はゴチソウサマ状態で、終盤力さえ伴えば無敵状態になります( ̄ー ̄)。こういう得意戦型をひとつずつ増やしていくというのは快感の極み。こうなったらしめたもので、序盤定跡の本というのは、アタマに入らないとかそういう問題ではなくなって、毎日読みたくて読みたくてたまらなくなるぐらいの面白い本になると思います。僕の場合、最近は本将棋を指すよりも、序盤研究をしたり定跡書を読んだりすることの方が楽しいぐらいの状態です。毎日、「おお~、そんな手があるのか、すげえ~」みたいな発見の連続になるので(^^)。


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コメント

 

なるほど!参考になりました。僕の場合1つの戦型(矢倉)を極めてから苦手な戦型を勉強するという感じにやっていました。
  • ユダオ 
  • URL 
  • 2014年07月28日 21時17分 
  • [編集]
  • [返信]

Re: タイトルなし 

少しでもお役にたてたのなら幸いです。でも、読み返してみたら、少し上から目線の書き込みで嫌ですね(^^;)。書き直そうかな…

ところで、Lexisさん=ユダオさんではないですよね?ちょっと混乱してきました。。
  • ShougiX 
  • URL 
  • 2014年07月30日 11時35分 
  • [編集]
  • [返信]

追記。 

(1つ目の書き込みがちゃんと送信されているか不安ですが)
筆不精な自分にとっては、ほぼ毎日長文の記事を更新され続けていることにただただ感心するばかりですが、ShougiXさんの記事の足跡を追って勉強を進めていこうかと思います。

Re: 追記。 

Lexis様、書き込みありがとうございます!
「1つ目の書き込み」というのは、残念ながらこちらでは確認できませんでしたが。。

いずれにしても、もともとブログを書き始めた理由の半分は、「誰かの役に立つなら」という事だったので、少しでもLexis様のお役にたてたのであれば嬉しく思います。

ではでは、これからも楽しく頑張ってくださいね!
  • ShougiX 
  • URL 
  • 2014年08月02日 14時12分 
  • [編集]
  • [返信]

1つ目の書き込み。 

さっそく記事にして頂いたにもかかわらず、書き込みが遅くなりました!RSSに登録し忘れていたみたいでして。
人生初の外耳炎もですが、記事の内容自体も耳が痛いです。
勉強量については言わずもがなですが、「なんでこれで先手がいいんだろう?」という疑問自体至極真っ当で、3手詰めの正答率が7割ほど、5手詰めがほとんど解けない今の自分にとって序盤定跡の勉強は優先順位の低いもののようですね。
ShougiXさんの足跡を追って勉強法を再考してみたいと思います!

あ、いい薬だと思うので記事の書き直しはしない方が良いと思います笑

Re: 1つ目の書き込み。 

お返事が遅くなり、申し訳ありません。

いやいや、僕も将棋を指す人全体から見たら、どう考えたってヘナチョコなくせに、上から目線の書き方になってしまって本当に申し訳ありませんでした。

しかし、3手詰の正答率が7割あるのであれば、すぐに強くなりますよ!僕なんか、5~7級ぐらいでウロウロしている頃は、3手詰の正答率なんて5割を切っていた気がします(T_T)。

お互い、これからも楽しくがんばっていきましょう(^^)!!
  • ShougiX 
  • URL 
  • 2014年08月03日 13時01分 
  • [編集]
  • [返信]

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Author:ShougiX
駒の動かし方を知っていた程度の初心者です。せいぜい1日1時間ぐらいしか将棋に時間を割けない社会人が、ガンバって1年で初段になる事が目標です!
(*追記)10ヶ月ちょいで初段到達!!ただいま、居飛車側から各戦型に対応できるよう奮闘中(汗)。。

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